狭い世界 『あの日、あの事件に関わって、世界は広いもんだと思ったら、違った。 住む世界が変わってしまったから、逆に狭くなったんだ。 終わるまで、俺の住む世界は狭いままだ。あんたもそうだろ? 家族との接触を避けて、特定の人間としか顔を合わさない』 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 空港を出てタクシーに乗り込む。 「荷物は?トランク使うか?」と運転手に訊かれるとクリスは手でこれだけだ、と手荷物を示す。 着替えは申し訳程度、あとは携帯・煙草・ライター、ハンドガンとホルスター、予備のマガジン位しか入っていない。 組織の手配で、合衆国、ヨーロッパ諸国への銃器持ち込みが認められているのは有り難かった。 行き先を告げると、クリスはサングラスを外しシートに深くもたれる。 久しぶりの母国。2年前に会ったきりの妹の顔が脳裏に浮かぶ。 クリスは窓の外の景色を見ながら苦笑した。 妹の笑顔を頭から追い払うと、ぼんやりと思った。煙草が吸いたい。 夕日が沈みきって見えなくなった頃、タクシーが目的地に着いた。古いアパートと小さな店が幾つか並んでいる住宅街だった。 金を払って車を降りると、早速バッグから煙草とライターを取り出す。火を付けて深く肺に煙を吸い込む。 母国とは言えども知らない場所に心地悪さを感じて煙草をくゆらせながらクリスは視線を周りに泳がせた。 通りの角に簡素なスーパーマーケットを見つけると、それを目指してゆっくり歩き出す。 適当に酒を買い込んで外に出ると、携帯が鳴った。 『クリス?』 耳に流れてきた声にクリスは小さく笑みを浮かべる。 「もう近くに居るんだ、スーパーに寄ってた」 『思ったより早かったじゃないか。じゃあアパートの前で待ってるから』 オーケイ、とクリスが返す前に通話は切られた。 「返事くらいきけよ」携帯に向かって呟いて、ブルゾンのポケットにしまう。 つまみも買っておけば良かったかな、と思いながらレオンの待つアパートへと向かった。 「クリス」 古そうなアパートの下で小さく手を挙げるレオンを見つけ、クリスはバッグを持った手でサインを返した。 至ってシンプルなグレーのロングスリーブにデニムパンツとラフな姿のレオンはクリスを迎えると、軽くハグをする。 「久しぶりだな、直接会うのなんて1年ぶり位じゃないか?」 長い前髪を揺らせてレオンが云うと、クリスはとぼけた表情で「1年も経ってるか?」と応じた。 「忙しすぎて呆けたか」 「相変わらず生意気な口だなぁ、お前」 レオンはクリスの目を見て、挑発するかのように眉を上げて薄く笑う。「魅力的だろ?」 「着飾った時に落としたい女性相手にでも云うんだな、そういうのは」 にっこりと笑って云い返してやると、レオンは途端に渋い顔をする。 「今の俺に着飾って女を口説くチャンスなんて、そうそうあるもんか。せいぜいあんたとその安酒を呑んで、慰め合う位だろ? それ貸せよ、持つから。寒いから部屋行こう」 云って、クリスの手から酒の入った袋を受け取ると、階段を上っていく。 一年前に比べていくらか筋肉の増したレオンの背中を眺めながら「これで懐いてる方だからなぁ」とぼやいて、 空いた片手をブルゾンのポケットに突っ込むと、クリスはその後を追った。 初めて入ったレオンの部屋は殆ど最低限の物しか無く、酷く生活感に欠けていた。 入ってすぐの小さなキッチンには冷蔵庫とゴミ箱のみで、食器棚すら置かれていない。 奥のベッドルームには床に直接置かれた小さなテレビ、簡素なベッド、その脇にあるテーブルの上に小さな紙袋とノートパソコン。 パソコンの周りに分解されたハンドガンが置かれていた。 テーブルの足元には使い込まれたニーパッドとエルボーパッドが放置されている。 「俺もまぁ似たりよったりだけど、それにしても何もないなぁ」 つまみどころか食べ物があるかどうかすら分からない。 バッグを床に置いてクリスが呆れた声で云うと、レオンはベッドの上に袋を置いて肩を竦める。 「ご覧の通りだ。見ての通りソファすら無いから、適当に座ってくれ」と、ベッドを指すと、 これまた小さなクローゼットを開けてハンガーを取り出し、クリスのブルゾンの袖を軽く引っ張る。 クリスは促されるままポケットからライターと煙草、携帯を取り出してベッドに放るとブルゾンを脱いでレオンに預けた。 「酒は買ってきたからいいけど、なんか肴になるようなもんあるのか?」 ベッドに腰掛けて尋ねるとレオンはテーブルの上の紙袋を指差す。「その中」 クリスが手を伸ばして袋を開けると、ガムが出てきた。目を丸くしたクリスに、レオンは堪えきれず軽く吹き出す。 「おっまえ、ガムがつまみになるかよ……!」 「シリアルもあるけど、ミルクがない」 レオンは笑いながら云って、キッチンへ戻って行った。クリスは溜息をついて紙袋をテーブルの上に置く。 「シリアルに酒ぶっかけて食うのかお前。グルメだな」 聞こえない位の声で呟いたが、レオンの耳に届いたようで「クリスが今度試してくれ」と年上を舐めきった言葉が返って来た。 それに何も答える気が起きず、クリスはテーブルに置かれたハンドガンの部品をひとつ、指でつまむ。 銃器がバラバラで放って置かれると、なんとなく落ち着かない。しかも通常分解より細かく分解されているので余計気になる。 バラバラになったパズルのピースを黙って見ていることが出来ず手を伸ばしてしまいたくなる子供のような、そんな感覚だ。 勝手に組み立ててしまおうか、と思った矢先にレオンが戻ってきたので、大人しく部品を元の位置に置いた。 「ガムとシリアルが駄目なら、クラッカーとチーズでどうだ?」 携帯食用のクラッカーと、スモークチーズの入った袋をテーブルの余白に置くと、レオンはクリスの左脇に腰を降ろした。 「クリス、いつまでうちに居れる?て云っても、俺は明日の夕方から出ないといけないんだ」 クリスは袋から酒を取り出して、適当に軽そうなビールをレオンに渡す。 「明後日にロスで会わないといけない要人がいるから、明日の夜までか。だから、一緒に出れば丁度良い」 「そうか……忙しいな、お互い」 ビールやらワインやら適当に手にした酒を二人で4、5本空けた頃、レオンがクリスの左肩に寄りかかってきた。 どうした、と覗くと顔と耳だけでなく首筋まで赤く染まったレオンが 「……負けた、あんたやっぱり酒強いな」と、眠くなったのか甘みを帯びた口調で云う。 「眠いのか、じゃあ今片付けるから寝ろよ」 空いてる右手でベッドに放っておいた携帯などをテーブルに移動させて、クリスはレオンの肩を揺すった。 レオンは緩く首を横に振ると、クリスを見上げる。 「おれ、シュラフがあるから、床で寝る、クリス」 「俺が床でいいから、ほら横になれって」 肩に手を置いて寝かせようとすると、クリスの腕を掴んでまた首を振る。 「いやだ、……あんたは一応客人なんだから、ここで、寝ろよ。どうしてもって云うなら、一緒にこの中だ」 レオンにそう云われて、クリスは以前の事を思い出した。 やっぱりあの時もレオンが酔って、クリスを離さずそのままベッドで共に寝た。 普段は毒ばっかり吐くくせに、酒の力を借りるとやけにひっついてきた揚げ句、毒の代わりにキスを繰り返してその先を強請る。 結局のところその誘いに流されてそのままヤってしまったわけだが、前回はホテルのまぁまぁ広いベッドだったから良かったものの、 このベッドは男二人が充分寝れるような広さではない。 「レオン、云うこと聞けって」 あやすように云って自分の腕からレオンの手を離そうとすると、さっとクリスの首に両腕を回してくる。 「レオン」 顔が近付いてきてクリスは止めようとレオンの腰に手を掛けるが、レオンはそのままクリスの唇を塞いだ。 舌が進入して誘われると、つい応えてしまう自分が情けない。 そのままレオンが後ろに倒れ込もうとするので、仕方なく唇を合わせたままゆっくりと押し倒してのしかかる。 角度を変えてキスを繰り返す度にアルコールの臭いと濡れた音が漏れて、お互いの酔いを更に煽っていった。 クリスの首に回したレオンの両腕から少しずつ力が抜けていくと、クリスは一旦唇を離してレオンのとろんとした目を覗いた。 「酔ってる状態のお前に云っても意味ない気もするけど……止めとくなら今だぞ」 前髪を指で梳いてやりながら云うと、レオンは荒い息を吐きながら答えた。 「一年前にも……云っただろ、俺の世界は狭くなったんだ。可愛かった彼女も、……好きになった人も、居なくなった。 こうしてベッドの中で相手してくれるのは、今のところ自分の手か、残念ながら目の前にいる信頼出来るひとだけだ」 馬鹿なやつだな、と小さく笑って、クリスは「誘うならその『残念ながら』は余計だ」と云うと、レオンの服を脱がしにかかる。 恋人を安易に作れない気持ちは理解出来た。友達や家族との対面さえ、お互い避けている状況だから。 自分は構わないが、やっと23歳という若さのレオンがその境遇に置かれているのが哀れだなとクリスは思う。 正直な気持ちを云うと、ベッドが広かろうと狭かろうと、構わない。 うっかり「愛している」と云ってしまいそうだ。 でもそれは敢えて云わないで置こうとクリスは思った。 いつあの凶悪な傘が再びどこで開くかわからない。その時、自分が生き残れるかどうかも。 クリスは剥ぎ取った衣類を床に放り、レオンの膝を抱え肩にかけると膝立ちでレオンを見下ろした。 右手で緩く、形を変え始めていたレオンのペニスを扱くと、徐々に堅くなっていく。 「……っあ、あ」 じわ、と透明な汁が先端の窪みに浮き上がる。空いていた左手の親指でそれを拭い、レオンの乳首に塗りつけた。 徐々に力を込めて扱くスピードも上げると、レオンは喘ぎを堪えるように自分の右手で口を覆う。 「……レオン」 クリスは口元の手を外させ、肩に乗せた膝をレオンの頭に向かって折り込むように抱えた。 口元を隠したがるレオンの手を誘導し、レオン自身の膝裏を支えるように固定すると、 「しっかり自分で支えろよ」と零してクリスは扱いていたものに顔を近付けた。 「あ、クリ……ス……ッ」 躊躇いもせずに口に含むと、レオンの足がピクッと跳ねる。そのまま歯でやわらかく噛んでやると、高い声を上げた。 繁みを指でかき分けて根本まで丁寧に舐め、強く弱く吸ってやると甘い息が聞こえる。 酒が入っているというのに相変わらずの反応の良さに気を良くして、いつまでも舐めてやりたい気もしたが、クリスは口を離すと、 唾液ですっかり濡れてあとは開放を待つだけのレオンのペニスを再び右手で扱き出した。 「うぁ、……クリス……っ、あぁ……」 滑りの良くなったペニスを扱きながら、その下で情けなくゆらゆら揺れる袋を左手でそっと掴むと玉と玉を擦り合わせるように揉んでやる。 はぁはぁと息を荒げながら「も、っ……ぁあ、出……そう」と泣きそうな声で云うレオンに、クリスは微笑む。 「出せそうなら出していいぜ」 優しく云ってやると、レオンは小さく頷いてぎゅっと目を閉じる。更に力強く扱いてやると、息を呑む音が聞こえ、勢い良く白い液が飛んだ。 蛙をひっくり返したような体勢だったレオンの顔まで届いた白い液を舌で全部舐め取ってやると、もう手を離していいか?と聞かれた。 イってしまった事で少し酔いが醒めたのか、酷く恥ずかしそうな顔のレオンについつい 「まさか。まだ駄目だ、続きが欲しいならちゃんと足開いて支えてろよ」と答えてしまう。 口の中に残ったレオンの精液と自分の唾液を、舌で左手の中指に絡ませるとアナルの入り口にあてがう。 「く、クリス……あっ」 勿論濡れてるわけでは無いから、そこは閉ざされたままだ。レオンの腰が軽く揺れる。 「今度からローションがあると楽だな。レオン、痛いかもしれないけど我慢しろよ」 忠告して指先を沈めて、ゆっくりと付け根まで押し込む。軽く動かし始めるとレオンの口から不規則な喘ぎが再び漏れ出した。 「あ、あぁっ、……うっ…ん……」 時間を掛けてほぐし、指の本数を徐々に増やすとなんとか3本が入った。 慣れさせている間に興奮したレオンのペニスが、出し切れなかった精液を垂らしつつ、また勃ち上がっているのを愛しく思いながら 「……もう、いいか。レオン、手外していいぞ」と声を掛けて指を引き抜く。 甘い悲鳴を漏らしながらレオンが手を外してシーツにすがると、支えを失った両足が閉じようと動き出した。 させるか、と間に身体を割り込ませて、クリスはベルトを外してジッパーを下ろすと、 興奮しきった自身のペニスを取り出してレオンのアナルへと先端を押しつけた。 ぐぐっと先を侵入させると、レオンの瞳から涙が零れる。 汗を浮かべて朱に染まった綺麗な顔を見ていると、本当に、今にも『愛しているよ』と囁いてしまいそうだ。 「大丈夫か、とか聞いてやりたいけど敢えて云わないからな」 『愛してる』と云ってしまいそうだから、なんてお前は想像も付かないだろうけど、と苦笑して深くまで穿つと、レオンが頭を振る。 「あ!あ、あぁっ……っ!はぁ…っ」 口元を覆うこともすっかり忘れたレオンの喘ぎを聴きながら、クリスは言葉の代わりだと云わんばかりの強さで腰を動かした。 「は、あっ、クリス……っ!」 シーツを離して縋り付くレオンの頬にキスをすると、かすかに「好きだ」と聞こえた気がした。 それを聞こえなかった事にして、クリスは自分の決断を惑わす艶めいた唇を塞いだ。 ...end...
□□□□□□あとがきもどき。□□□□□□ クリス×レオン。いろいろと捏造妄想。ベロニカ(プレイしてないので妄想)半年後に、 メールだけの付き合いだったレオンとクリスが会ってヤっちゃって、1年後にまた会った、 という妄想です。クリスはレオンが可愛くて仕方なくて不器用に愛していくよ的な話だったつもりなんですが、 レオンがクリス好き好きモードに……。しかもこれからケビレオとクラレオとかどんどん繋がって行く予定です。 中途半端な部分で終わってる上にさっぱりな文章で多分自分自身にしか分からないと思われます。精進したいです。 2008.5.31 ≪back