シーパラダイス




想像していた以上のスタイルの良さに、レオンは思わず唾を飲み込んだ。
そのレオンの様子に大人の女性らしい微笑みを浮かべ、ジルは「似合う?」と尋ねる。
鮮やかなブルーのビキニ姿でそう尋ねられて、異論を唱える筈がない。
「凄く似合うよ。ハリウッド女優が現れたのかと思った」
口からサラッと誉め言葉を零し、レオンも笑顔を作る。
「レオンも可愛いわ。学生に見えるわよ」
ジルはそう言って、レオンの全身を眺めた。
男が女の水着姿を見て感動するように、こうして良い具合に鍛えた男性の身体を眺めるのも、女の立場として愉しい事だ。
普段お互いに水着姿でなんて会った事が無いだけに、新鮮な感じがする。

一方、『可愛い』と云われたレオンは瞬時に笑顔を苦いものに変えた。
海で遊ぶなんて少年時代以来の事で、水着なんて当然持っていなかった。
『海に行く』事が決まった時点でも、着る気もなかった。
「折角行くんだから、水着くらい着なさいよ」とジルが云ったものだから、渋々承諾し、
そう言い出したジルに見繕って貰ったものなのだが。
レオンが履いているものは、形は一般的なトランクススタイルで、ベースの色はダークグレー。
ポイントで脇にホワイトの縦ラインが入っている。特別奇抜なデザインや色でもない。むしろ地味なものだ。
それでも年上の女性にそう云われると、照れを通り越して恥ずかしくなる。
三十路ももうすぐそこまでやってきているのに、「可愛い」と誉め言葉として云って貰っても、喜べない。
穴があったら入りたい。隠れたい。むしろ帰りたい。そんな気持ちになった。
上半身裸で、水着姿では武器のひとつも忍ばせられない。それもまた普段の仕事柄、レオンを心細くさせる。
いつ何が起こるかわからない。そんな日常に生きている身(ジルもだが)だから、余計心許ない。
(まぁ、こんな姿でホルスター装着するわけにもいかないしな……)
内心そう呟いて、愛用の銃とナイフの事を頭から追い払うと、レオンは遅れてやってきた人物を見た。

ジルはジルで、いたたまれなさそうな様子のレオンを横目に、
(もっと派手なの着させたかったわ……。メンズビキニですっごくセクシーで可愛いのがあったのに、ああ……残念ね……)
……そうひっそり思う。
数日前、レオンの水着を買いに一緒に出かけた。
膨大な数の水着の中から、最初にジルが何枚か選んであげた。
だがしかし、真っ青な顔で全て拒否された為に、泣く泣くこうして地味なものを選び直したのだ。
(そりゃトランクス型だって可愛いけど、折角だしやっぱりビキニスタイルが見たかった……)
ベージュピンクのグロスを塗った唇から、ハァ、と溜息が漏れた。
そうして、レオンの見ている方へ視線を向ける。かつてのパートナーの姿に、ジルは目を細めた。
(やっぱりクリスは良い身体してるわ〜……。ああ、可愛いなぁレオンたら。どうせ見慣れてる癖に見惚れてるじゃないの)
上から下に向かって黒から濃いグリーンへとグラデーションカラーのサーフパンツ姿で現れたクリスに、レオンは固まっている。
「悪い、待たせたか?」
そう笑うクリスに、レオンは何も云えないでいた。
(わかる、わかるわー……。例え素っ裸を知ってても、普段と違う姿を見ると何故かドキっとするのよ、恋愛ってやつは)
心でツッコミを入れつつ、ジルはクリスから目線を外して、目前に広がる砂浜を見回した。

こうしてこの三人が立っている白い砂が広がるビーチには、他に人影は見えない。
テーブル付きのパラソルが数本、そしてパラソルの下にビーチベッドがそれぞれ用意されているだけだ。
青い布地のパラソルが人気のない白い砂浜にくっきりと浮かんでいる。
どうして海に来たかと云うと、大統領の娘の招待だ。といっても、アシュリー本人が来ているわけではない。
エージェントといえども、しっかり福利厚生が整っているのに、何一つ利用しないレオンへ無理矢理送りつけてきたリゾート招待。
一度目、二度目は「忙しいから、またの機会に頂戴するよ」、とやんわり断っていたレオンだったが、
流石に何度も断り続けているのに困って、ジルに話を持ちかけた。
美しい女性と二人でなら行ってもいいかな、と軽く思ったレオンだったのだが、肝心のジルが
「あら、じゃあクリスが帰ってきた時にでも都合をつけて三人で行きましょうよ」と云ったのだ。
それで今日この日を迎えたわけだ。
リゾートホテルは1日に数組しか受け入れないという経営方針で、尚かつ砂浜のすぐ裏にコテージ風な造りで建っている。
そしてこの充分な広さを誇るプライベート・ビーチ。人目を気にせず部屋から水着で海に出られる、というわけだ。

「こんな綺麗なビーチで他に人が居ないって気分いいわね」
ジルは二人に向かって云うと、ブランド物のビーチ・バッグを片手に一番近いパラソルへ足を向けた。
レオンは惚けていた自分にハッとして、クリスから視線を外し、足早にジルを追う。
そのレオンの、一瞬で赤くなった顔を目にして、クリスは笑いを噛み殺した。

ジルはビーチベッドに腰掛けて、バッグの中から日焼け止めを出すとレオンに放った。
「レオン、あなた日に焼けると赤くなるタイプでしょ?それ塗っておきなさい」
ボトルを受け取って、レオンは照り付く太陽を見上げる。
「やっぱり、塗らないと悲惨な事になるかな?」
「日焼けって酷いとホントに火傷よ、この日差しだもの。塗っておいた方がいいわ。私は部屋で塗ってきたから気にせず使って」
ジルはそう忠告して、本を取り出した。水着を着ているものの、ジルは海に入る気は更々無い。
こうして、心地よい潮風が吹く砂浜で、時間を気にせずゆっくり本を読む。ジルが気に入っている海辺での過ごし方だ。
「ちゃんと背中も塗っておきなさいよ?首筋も。ああ、クリス、手伝ってあげて?」
上官に対するような口調で「了解」とクリスは云うなり、レオンの手からするりとボトルを取り上げた。
手の平にたっぷり日焼け止めを出し、レオンの背中に塗り始める。
その手つきがセックスの時と同じく、厭らしくなぞるような仕草を見せたのでレオンは息を呑んだ。
「(ちょ……っ、クリス……!)」
小声で窘めるが、クリスは構わず塗っていく。
側にジルが(もう本の世界に入っているが)居るというのに、なんという意地悪をするのかとレオンは眉を寄せる。
「日焼けの盲点のひとつってここだよな」
クリスはレオンの水着を指でくい、と引っ張り腰付近をなぞった。
「(クリス……!)」
「ここちゃんと塗っておかないと後で腰周りに一本線が出来るぞ?」
「(腰周りくらい、自分の手で塗れるって!)」
「足も塗ってやるよ」
「(……!)」
足を含めて塗り終わった頃には、レオンは荒くなる息を殺すのが精一杯だった。
じっとり汗が額に浮かんでいるのは、絶対に日差しのせいでは無いとレオンは思う。
もう半分勃っている状態がジルに判ってしまうんじゃないかと怖くなり、慌てて澄んだ海へ向かった。
「待てよ、一緒に泳ごうぜ」
レオンの肩を抱いて、クリスが囁く。
「…………」
もう、帰りたい。レオンは再びそう思った。


ちゃぷ、と水面が立てる音に先程の後ろ向きな考えが薄らいでいく。
大人になって海水浴というのは初めてだが、海に入ってみてこうも気持ちいいものだとは思っていなかった。
満潮になるにつれて足が着くとこでもあっという間に深くなる、というクリスの言葉から、
二人は胸元より少し下くらいまで水に浸かる程度の浅瀬に居た。
だから泳ぐ、というよりもゆるやかに訪れる波にユラユラと身を預けながら立っている感じだ。
「なんかこーゆーの、初めてだな」
歯を見せて笑うクリスに、レオンは「まぁな」と答える。
(そりゃ、お互いの日常からかけ離れすぎてるだろ、こんな状況)
でも、こうして何をするわけでもなくプカプカ浮いていると、殺伐としていた日常の方が夢だったんじゃないか。
レオンはぼんやりそう思った。そのぼんやりしていた気分は、ふいにレオンの腕を掴んで来たクリスの次の言葉で一気に冷めた。
「そういえば、電話した以来我慢したか?」
「ーーーーー!」
軽く腕を引かれ、距離が縮まり、浮いた足をクリスの腰に絡めるようにされる。そうして、水中でクリスの左手がレオンの股間に伸びた。
レオンは思わずクリスの首に腕を回した。そして砂浜の方を振り返り、ジルの視線がこちらに向かっていない事を確認する。

10日前に、レオンはクリスから電話で「10日後だったよな?海。……今日から、会いに行く時まで抜くなよ?」と云われた。
なんで?とレオンが問う前に、「じゃあまたな」と電話は切られてしまった。
馬鹿正直に、取り敢えず云われたまま抜かずに我慢したが(10日といえば成人男性としては我慢してる方だとレオンは思う)、
クリスがやって来たのは深夜だったので、レオンは未だ抜けずにいる。
今ここで触る為か!と気付いても後の祭りで、レオンはクリスの後ろ首を抓る。しかしクリスは歯を見せて笑うだけで、効果は何一つ無い。
「こういう……ことか……っ」
「ん?ちゃんと我慢したんだなーお前」
少し触れただけで主張しはじめたレオンのものを水着越しに楽しむと、クリスはレオンの唇を奪う。
「んんっ」
舌を絡ませると、更にグン、とペニスが膨らんだ。
時折波が顔にかかって、塩辛さが口中に広がる。
クリスは塩辛いキスを施したまま、レオンの足を自分の腰から外させる。
そうしてレオンの水着の腰紐を解き、勃起したペニスに引っかけないよう気を使いながら膝上まで下げた。慌てたレオンが唇を離す。
「!クリス……!?」
まさか、ここでヤる気か!?と不安そうな顔を見せたので、クリスは苦笑して小さく肩を竦めた。
「安心しろって、ここでヤるわけないだろ。軽いペッティングだけ」
「……安心も、なにも、ないじゃないか……」
波間で見えにくいとは云え、浜辺にはジルが居る。
「興奮するか?」
悪戯が成功した子供のように目を輝かせたクリスに、そう嬉しそうに云われて、レオンは呆れた溜息を零すしかない。
「いつもアンタに、これ以上無い位興奮してるだろ?」




クリスはレオンの右足から水着を脱がせ、左足のみに引っかかった状態の水着を太股まで上げてやった。
「レオン、ちょっと足閉じて脱げないようにしてろよ。海の中で水着無くすなんて相当な珍事だからな」
云って自分の水着から堅くなったペニスを取り出すと、再びレオンの足を腰に絡めさせた。
自分のとレオンのペニスを一纏めに握り、緩やかな手つきで擦る。

「ああ、やっぱり10日も溜めるといつもよりデカイし長くなるな。……な?レオン」
「っ、ふ……」
腕を首に回して抱きついたまま、レオンは顎をクリスの肩に乗せた。
時折人差し指の爪先で、先端の窪みをつつかれ、引っ掻くようにされる。
我慢の溜まったペニスに、少し痛いようなその感触が溜まらなく気持ち良い、
「ん、んん……」
(すぐイってしまいそうだ……)
自然と、乳首をクリスの胸板に擦りつけている自分に気付いて、レオンは薄く笑った。
部屋でヤる時だって、いつも興奮するけれど、こうして違う場所で……触るだけとは云え、また違う快感がある。

「出そ……ぅ」
あっという間に限界が近付いて、ギブアップ宣言をクリスの耳元に囁く。
そのまま出させてくれるのを期待したが、レオンの願いに反して『お遊び』はそこで終了となった。
不満気な表情を読みとったのか、クリスはくつくつ笑いながら「海中で出してみろ、たちまち魚が寄ってくるぞ」と云う。
「じゃあこんな中途半端に触るなよ……溜まってんのに……」
ぶつぶつ文句を言いながら、レオンは水着を履き直す。10日も抜けずにいたのに、この仕打ちはあんまりだ。
身体が疼いて仕様がない。
「俺も同じだけ溜まってるんだから、今は我慢してくれよ。……その代わり夜、楽しみにしてな」
クリスはそう云い、不満一杯のレオンの頬に軽いキスを与えた。

頬にキスを受けながら、クリスの言葉を頭で反芻して、レオンは一抹の不安を覚えた。
「……クリス?」
「ん?」
「『俺も』って、……?『同じだけ』……??……まさか、アンタも10日……」
「そうだけど、それが?」
「………!」
レオンは言葉を失って、口をぱくぱくさせた。火照った顔から血の気が引く。
『10日出さない』事をレオン自身が正に今体験しているだけに、
普段より断然、堅く・太く・長くなっている筈のクリスのを想像して鳥肌が立った。
助けを求めるようにジルの方を見る。が、彼女はまだ本の世界に浸っているようだった。

帰りたい。

レオンは三度、そう思った。







...end...


□□□□□□あとがきもどき。□□□□□□ 海に行きたいけど今年は無理そうなので、クリレオジルで海に行かせてみました。 アシュリーの御陰でどこだって行かせられます。権力万歳。 海っていうより山だよなぁバイオキャラ……。イメージ的に。 ロッジでいちゃこらするクリレオも良いなぁ……。 白いアレに魚が寄ってくるかどうかは、なんとなく妄想しただけで実際のところどうなのかは知りませんorz オナ禁プレイって、良いですよね……(´-ω-`) 今更ですけども、書く度キャラ崩壊していてすいません。反省は余りしていない。 補足設定で一応ジルはビーチ・バッグ(ディ●ール)にハンドガンを忍ばせています。男性陣が丸腰の為。 2008.8.4 ≪back