Heaven





ふぅう、と熱い息が吹き込まれる。下着越しにその生暖かさを感じて、俺は身震いした。
「……っ、はぁ……」
声が出てしまいそうなのを堪える代わりに息を吐いた。これで何度目だろうとか、ぼんやり思う。
頬まで熱くなったままで、背を預けた冷たい壁ですら、俺の体温を吸い始めている。
飽きるくらいにキスをして、いつも通りの流れで脱ぎ初めて……そこでいつもと趣向が変わった。
お互いあとはパンツ一枚脱げば真っ裸。のところで、こうして壁に追いつめられ、下着の上からクリスの息を吹き込まれている。
簡単に勃ってしまったソレを、しつこく熱い息で嬲られ、時には布越しに噛まれて。

どうしても前屈みになってしまい、そうすると股間に食いつくようにしている膝立ちのクリスが視界に入って、
それで更に欲情が増した。右手を伸ばしクリスの髪を指先に絡めるように撫でると、クリスはまた熱い息を送ってきた。
「んっ……」
暖房は付けてあるから、死ぬほど寒いわけじゃない。だけどもう30分近くもこのままだし、そろそろベッドに移りたい。
焦らされているのか、ただこうしたいだけなのかクリスの意図は掴めない。なので素直に云ってみることにした。
「……クリス……」
ふぅ、ともう一度熱い息を吹き込まれ、それからクリスがようやく下着から口を離して顔を上げた。
下着が仄かに湿ってしまっていて、クリスの唇が離れると少し冷たく感じる。
「ん?」
下から真っ直ぐ見つめられて、なんだか気恥ずかしくなる。
綺麗な瞳が射るように見上げてくるのに耐えきれず、合わせた視線を外して、俺は訊いてみた。
「そろそろ、ベッドに行かないか?」
クリスがニヤリ、と太い笑みを浮かべたのが、視線を外していても気配で分かった。
「ベッドで、どうしたい?」
全く、何を云わせたいんだか。まんまとその誘導には乗らず、俺は頑張って涼しい声色を作る。
「……いくら暖房を入れてても、今夜は今年一番の寒さなんだ、風邪引くだろ?」
クリスはクッと喉を鳴らして笑うと、俺の後ろの壁に添えていた左手を俺の尻へ回した。
デカイ手が尻を揉み始める。

「なぁ……クリス……」
「理由はそれだけか?」
どうしてもイヤラシイ方向で俺に云わせたいらしい。思わず俺の眉間にグッと皺が寄った。
それなら、クリスが欲しているだろう程度の台詞なんかより、仰天する位の答えを返してやろうか。
よーし。俺は心の中で気合いを入れる。目を閉じ、鼻からスゥと息を吸った。そして口を開くと同時に、目を開けてクリスの瞳を見つめる。

「ベッドで、裸に剥いて、下着越しじゃ我慢出来なくなった俺のをしつこくしゃぶってイカせてくれよ。
 尻を揉んでるその手で……指で、俺のアソコがトロトロに溶けそうになるくらい慣らして、
 あんたのその太くてご立派なペニスを中に入れて、天国に連れてってくれ」

トドメの代わりにニッコリ微笑んでやると、クリスは期待通りに目を丸くした。
「………………」
ぽかんと俺を見上げるクリスの口は半開きのままだ。俺の尻を揉んでいた手もすっかり動くのを止めていた。
デカイ図体で呆けてる様は笑いを誘う。俺は吹き出しそうになるのを懸命に堪えながら、俺なりの色目を作ってクリスを見つめてやった。
「クリス?」
俺が小首を傾げて促すと、クリスは瞬いて、そして勢いよく俺の股間に噛みついた。

「うわっ!!!」
痛い!!なんでそこで、どうして噛むんだ!?!?まったく行動が読めなさすぎる!
俺は突然の刺激に驚いて、慌ててクリスの頭を掴む。
股間に噛みついたクリスを引き剥がそうとして、そこでクリスが笑っているのに気付いた。
俺の股間に噛みつきながら、クリスは笑っていた。目尻には涙すら浮かんでる。
「……っはは…、ぶ……っはははっ!」
「………」
……どうやら俺が云った台詞は感動を通り越して笑いを呼び起こしたらしい。
ちょっと驚かそうと思って云っただけだったのに。
なんだかこれでは自分が馬鹿みたいな事をしてしまった気分に陥ってしまう。
クリスはひとしきり笑うと、やっと歯を外してくれた。
自分の股間に視線を落とすと、勃起して下着からくっきり形を浮かべていたペニスのあたりに、クリスの歯型が残っているのが見えた。痛い筈だ。

跪いていたクリスが立ち上がって、俺を抱きしめる。抱きしめながら、俺の頭を、まるで子供を褒めるように撫でた。
肩口に顔を埋めるようにして、俺もクリスの背に腕を回す。
「……そんなに可笑しかったか?」
「とんでもない。サイコーだった」
ほんとかよ、と俺は小さい声で文句を零す。サイコーだった、という手応えは微塵たりとも無い。糠に釘だ。
「本当だって」
俺の耳元に優しく囁くと、ほら、とクリスが自身を俺の股間に押し付けてきた。ソレは確かに熱を持っていて、硬い。
散々笑われて、ちょっと萎え始めていた欲が、再び俺の胸中で燃え始めた。
「じゃあ、そろそろ続きをしてくれよ」
クリスの唇に自分の唇が触れる程の距離で云い、俺はそのまま口付ける。

「ふ、……っん、ん……」
舌を絡ませながら、何度か唾液を飲み込む。徐々に息が上がってきた。
火照って、さっき一度冷めてしまった頬がまた熱っぽくなる。というか、身体全部が熱を帯びてきた。
お互いを貪るようなキスをし、抱き合ったまま、ようやくベッドへ近付いた。
クリスが上手い具合に誘導してくれて、俺は瞳を閉じたままでベッドに仰向けに寝そべることができた。
唇を離して、クリスが俺の下着をするりと脱がしていく。俺はその仕草が好きで、潤み始めた目でそれを追う。

ふいに、クリスより奥に目線が行った。ベッド周りの床には俺達が脱ぎ散らかした服が散乱している。
クリスの革ジャンが俺の視界に入った。
ラクーン・シティで……警察署のS.T.A.R.S.オフィスで見たクリスのジャケットと、同じブランド。
そう、あそこに置き去りにしてしまったまま街が無くなったから、そう云っていつだったか買い直したんだよな。
だからあの日みたのと『同じ』だ。
キリストの元には絶対居なさそうなファンキーな天使が描かれている。俺は微笑った。

(……俺がこれからイカせて貰う天国には、居るかもしれないな)

ひっそりとそう思って、俺はクリスに視線を戻した。

「お前があんな事云うもんだから、1回じゃ済まないかも知れないぜ?」
笑う俺に、クリスがやっぱり笑って云う。
「望むところだ」
答えながら俺は、しまったな、と思った。

そこはやっぱり『サイコーだ』って、答えるべきだよな……、と。












...end...


□□□□□□あとがきもどき。□□□□□□ レオン視点が描きたかったのと、甘いイチャコラ馬鹿話が書きたくて(あとメイドインヘブンジャケット) 混ぜてみますた。(*´∀`*)<めいどいんへぶーん! 短いけど愛はもりもり入っています。てんこもり。鬼盛り。 2008.12.04 ≪back