Silencer radio




「いいモノを買ってきたんだ。お前に」
笑顔を浮かべ嬉しそうに話すクリスに向かって、レオンはスナックの小袋を投げる。
片手でそれを受け取ると、クリスはポン、と腰掛けたベッドの脇を軽く叩いた。隣りにおいで、という合図だ。
「いいモノ?何だ?」
冷蔵庫から缶ビールをふたつ取り出して、レオンはクリスの元へ向かう。隣りに腰を下ろして、クリスの分のビールを手渡した。
「お前の部屋、なんもないだろう?」
プルタブを爪で引っかけながら、クリスが云う。レオンは不思議そうに眉を寄せた。
レオンの部屋の中は相変わらず、仕事に使う物だけが散乱している。素敵な具合で散らかっている為に、『物が無い部屋』という印象は薄いが、
それらを抜きにしてしまえば、生活感のあるものや趣味を伺えるものは殆ど置いていなかった。
「……そうだけど……それが?今更だろう」
改めて『なんもない』と称されて、レオンは口を尖らせる。
かつて訪れたラクーン警察署……S.T.A.R.S.事務所の、某・レッドフィールド氏のデスク脇の様に、
ギターのひとつでも置けと云うのだろうか。それは勘弁したい。置くならせめて、ウクレレだ。勿論弾けないけれど。

「だから……あ、これ持っててくれ」
「ん」
口を開けた缶ビールをレオンに持たせて、クリスは己の荷物を漁りだす。
再び両手がビールで塞がれたレオンは、胸中で十字を切り、『どうか神様、ギターじゃありませんように』と念じて大人しく待つしかない。
「いいか?レオン。見て驚くなよ?……っこれだ!!」
ニンマリと笑って自慢げにクリスが取り出した物は、どうやらレオンの願いが天に届いたらしく、
危惧していたギターでも、まさかのウクレレでも無かった。

「…………非常用ラジオ?」

ちんまりとしたサイズの、どこから見てもただの非常用ラジオ。クリスが取り出した物はそれだった。
手回し式で充電・使用が出来る、災害時にはとっても役に立つヤツだ。
「そう。オーディオ機器も無いし、深夜のテレビもつまらないだろう?」
どうだ、嬉しいだろ?というクリスの表情に、レオンは困惑する。
それで何でラジオなんだ。それもどうして非常用なんだ。腕時計と一緒で【手巻き式】は男のロマンとでも?
矢継ぎ早にそう尋ねたいが、グッと堪え、取り敢えず「ありがとう」を先に云った。
「でも音楽なら、ノートパソコンでも聴けるけど?」
一応付け足して云うと、クリスは嫌な言葉を向けられてしまった子供のように、顔を大袈裟に顰めた。
「いちいちパソコン起動させるのなんて面倒だろう。早速聴いてみようぜ」
クリスはくるくると小さなハンドルを回す。
小さいハンドルを嬉しそうに回すその姿がやけに可笑しく思えて、レオンは声を出さずにひっそりと笑った。
「よし、これで……」
ぶつぶつ零しながらクリスは細いロッドアンテナを立て、適当に選局を始めた。チャンネルを探り、暫く吟味する。
あーでもない、こーでもないと文句を連ね、結果、一昔前の年代の曲を特集しているらしい局に落ち着いた。

ノイズと共に流れてきた音楽に耳を澄ます。甘い声。女性シンガーの、ゆったりとしたテンポのバラードだ。
昔に、聴いたことのある曲のような気もするが、記憶が曖昧過ぎてレオンにはタイトルが思い出せない。
「なんだっけ、この曲」
4つ年上なんだから、タイトルか歌手の名前くらい、クリスは覚えてるだろう。レオンはビールに口をつけ、喉を鳴らして飲み込んだ。
クリスは適当な鼻歌を曲に合わせながら、ラジオを枕元に置いて、脇に避けておいたスナックの袋を手に取って封を開けた。
ナッツを数粒取り出すと、両手が缶ビールで塞がっているレオンの口へ、己の指先ごと放り込む。
「っ……んぐ、っん」
「懐かしいなー。俺が18歳位の頃の曲だぜ、これ。Rush Rush。覚えてないか?」
云ってレオンの舌先にナッツを置くと、指を引き抜いた。濡れた指先を舌で舐める。
「あー……」
口の中につっこまれたナッツをぼりぼり噛み砕きながら、レオンはようやく思い出す事が出来た。
そこで曲が丁度サビ部分に差し掛かり、耳を傾けつつ頷く。
クリスが18歳の頃の曲なら、レオンは14歳だ。サビ部分でようやく判る程度にしか覚えていなかった。
「ええと、……思い出した。……Paula……Abdul?」
「そうそう」
歌手名を思い出したレオンに、クリスは笑むと、預けていたビールを受け取る。その後、小一時間程ひたすら呑みながら、
ラジオから次々流れるかつての流行の歌に「これは知ってる?」「知らない」、
「なんで知らないんだ!!」「知らなくってもいいだろ別に!大体これいつの曲だよ!?っていうか、そもそも誰の歌だ!?」などと一喜一憂?し、
互いの音楽の好みの差や、『昔見てたテレビ番組』の差まで話を膨らませ、今更気付いたジェネレーションギャップに始終笑って盛り上がった。



「あー、……笑い過ぎて頬が痛いな。年の差なんて4つだけだし、クレアよりもお前の方が年上だしで、
 ジェネレーションギャップなんて感じる事なんか無いと思ってたんだけどな。意外だ」
同じく笑い過ぎて痛む頬を片手でさすり、レオンはクリスの腕を肘で小突いた。
「ロケットランチャーでも崩せない世代の差の壁が出現して、ショックか?」
ニヤっと笑って顔を見やると、クリスはくしゃりと顔を歪め、渋い表情を作る。
「俺の方が随分と『大人』なんだな、って改めて認識しただけだ。……だから、レオン。もっと敬っていいぞ?」
背筋を伸ばして、偉そうに構えるクリスにレオンは吹き出す。
「オーケイ、心の底から尊敬してます。ミスター・レッドフィールド」
馬鹿丁寧な口調でレオンが答えると、クリスは残念そうに肩を落とし、悄気てみせた。
「なんだそれ……。余りにも胡散臭えなー」
再び声を上げてふたりで笑う。
そうしてクリスはレオンの手から空になったビールをするりと取り上げると、自分のと合わせて床へ置いた。
なにか言葉を掛け合うこともなく、自然と互いの唇を寄せる。
「ん……」
啄むように軽いキスを繰り返して、徐々に深く求め合った。
普段なら濡れた音が恥ずかしい位ハッキリ耳に届く筈だが、ラジオに消されて少ししか聞こえない。
「は……っはぁ……」
キスをしたままクリスの手の動きに流されて、レオンはベッドに身体を沈めた。

ようやく唇を離して、レオンの額に軽くキスを落とすと、クリスは顔を上げる。嬉しそうにレオンの名前を呼んだ。
「レオン」
声をかけながら、レオンの脇腹を優しくなぞる。
「っん、なに……?」
伏せていた睫毛を上げて、レオンはクリスを見返した。
「今日は、いつもより声出していいからな」
「……!」
云われて、レオンはハッとする。……枕元で音楽を垂れ流し続けるラジオ。……もしかして、もしかしなくても。
こいつを買った理由はナニ最中の、喘ぎ声の消音目的……?

一気に頬を赤くしたレオンに、クリスは意地悪げに笑って、更に言葉を続けた。
「それとも、……消すか?」
何を、とまでは云わない。
確定だ。レオンは心の中で呟くと、首を横に振る。
頬にクリスの手が添えられ、再びクリスの顔が近付いてくる。レオンはゆっくり瞳を閉じて、唇を待った。
舌を絡め合っているうちに曲が終わり、すかさず次の曲が流れてくる。たまたま知っている曲だった。
歌詞の中身はともかく、タイトルが今の自分にぴったりな気がして、レオンは唇を啄まれながら、隙間からそれを言葉にしてみる。
「……Welcome……to…my life……」
クリスの耳元までは届かなかったようで、唇を離して「何か云ったか?」と尋ねられた。なんでもない。レオンは笑って首を振る。

着ていたシャツを脱がされ、首筋に唇が触れた。
むず痒いような、くすぐったいような感覚がレオンを覆う。吐息混じりに、唇が首筋を啄んでいき、時折舌先でチロリと舐められる。
それだけで、鼓動が速まっていく。ラジオより大きい音を立ててしまっているんじゃないか?という不安に駆られた。
「っ……ん、クリス……」
首筋を辿って行き着いた鎖骨を甘噛みされる。ああ、心臓が近い。はぁ、とレオンは大きく息を吐いて、枕に頭を擦りつけた。
静かにしろ、と心臓に命令を下しても聞いてくれるわけがない。
酔っているせいも勿論あるけれど、耳の奥からもドクドクと自分の鼓動が響いてきて、焦りに駆られた。
でも、どうしようもない。どうしようもなくて、レオンは両手を伸ばしクリスの耳元を塞ぐように添えた。
塞いでいるのがクリスにバレないよう、指先で耳裏を擽る。
胸板まで下がってきたクリスの唇が、右胸の突起を包んだ。
「あっ、ぁ……」
自然と身体が逃げそうになるが、左脇の隙間から差し込まれた腕に肩を掴まれてロクに動けない。

吸われ、噛まれて、舌先で弄ばれる。しつこい位に愛撫され、肌が汗ばんできた。
「んっ……ク……リス」
次第に甘くなる自分の声が、ラジオの音量で全て消されればどんなにいいか。
アパートの隣りの部屋には届かなくなるかもしれないけれど、流石にクリスには、いつも通り聞かれている。
ヒリヒリしてきた乳首からようやく唇が離れて、レオンはホッとして唾を飲んだ。クリスの耳を塞いでいた手を放し、ベッドへ落とす。
クリスは空いている左手で口を拭うと、満足そうな笑顔を作った。
まるで、食事を終えた動物みたいだ。ぼんやりと思いながら、レオンは荒くなった呼吸を整える。
「こっちはどうする?レオン」
突然訊かれて、レオンは目を瞬かせた。
「え……、こっち、って……?」

「ここ」
云いながら左の乳首を指先で弾かれて、レオンは息を呑んだ。
「っ……ぅっ!」
愛撫されていた右側程はないが、とうに硬く勃っていた部分への刺激に身体が揺れた。
「それとも、もうこっちが良いか?」
股間に手が添えられて、軽く揉むようにされる。
「!!……ぅあ、っあぁ……」
「……どっちが良い?」
とびきりの低音がレオンに選択を促す。しかし、よりによってバックで流れている曲がアホみたいに明るいサンバで、
レオンは、サンバの音楽に呑まれ何がなんだかわからなくなる。頭の中がカーニバルだ。
「なぁ、レオン。どっちが良い?」
訊きながら、クリスは片手で器用にレオンの下を脱がし始めた。
下着ごとズルリと服を剥かれ、すっかり勃起している自分のモノが視界に入り、レオンは無意識に腰を揺らす。先端には雫が浮かんで濡れていた。
クリスの手がレオンのペニスを包む。
「っは、ぁ、……ん」
親指の腹で、雫を先っぽ全体に塗りつけるようにされ、レオンは堪らず顔を覆った。

自分で触るのとは格段と違う。全く、俺は、どれだけこの人の手を待ち望んでいたんだろう。自嘲の笑いを心の中で浮かべた。
思っていた以上に膨らんでいた己の願望を知ってしまったら、あとはそれに従うしかない。
「クリス、そのまま……」
そしてきっと、望んだ以上の喜びが、何倍にもなって還ってくる……。レオンはそう確信していた。





「……っふ、あ」
2、3曲は流れただろうか。結構な時間をかけて慣らされた部分から指がゆっくりと引き抜かれる。
レオンは鼻から抜けたような声を出して、その感覚に耐えた。そして、一番待ち望んでいたものを受け入れる為に、大きく股を開く。
全く日に焼けていない、レオンの内腿に軽くキスをしてから、クリスは服を脱ぎだした。
ゴムを着ける間も、思いついたように時折、レオンの足首へ脹ら脛へとキスを落とす。
「レオン、手」
クリスはレオンにのし掛かり、自分のモノをレオンのペニスの上に乗せると、手を出すように促した。
「……?」
わからないままレオンはシーツを手放し、右手を差し出した。クリスはレオンの手の平を上にさせると、そこへローションを落とす。
「わ、わっ!」
手に落とされたトロリとした感触に、レオンは声を上げた。予期していなかったので、焦って平らにしていた手を窪ませる。
クリスはローションボトルを放って、両手をレオンの脇へ着いた。
「塗って」
レオンに向かって笑いながら云うと、クリスはそのままレオンを見下ろし、濡れた手を待つ。レオンはその様子が可笑しくて微笑んだ。
「なんだか、餌を待つ犬みたいだ」
「これ以上のお預けは困るな」
馬鹿、お預けをくらっていたのはこっちも同じだ。レオンは思いながら、そっと、クリスのペニスへ両手を伸ばす。

優しく扱くように塗りつけながら、こんなサイズがいつも自分の中へ入ってるのか。よくもまぁ入るもんだ。と奇妙な感心を覚えた。
そしてこれが、自分を信じられない位、快楽の深淵へ堕とす。底なし沼といってもいい場所へ。
……究極の兵器だな。レオンは笑う。
俺を堕とす、唯一の兵器。

「……、もう、その位でいい」
クリスが小さく呻いてレオンを止めた。「うっかりこのまま出してしまうとこだった」続けてそう零したので、レオンは手を放し笑い声を上げた。
「早漏すぎやしないか?」
「そんな筈ないだろう。この巧みな手が素晴らしくて」
「馬鹿……、それより、これどうすればいい?」
呆れつつ、レオンは濡れた手をクリスに見せた。この手でシーツを握る……というのは、ちょっと抵抗がある。
「自分の胸にでも塗りつけて弄ってな」
「そんなの……っ〜〜うぁっ!!」
クリスはレオンの膝裏を掴んで、長い足を折り込むと、先端を沈める。驚いたレオンが締め付けるが、構わず奥へそのまま腰を進めた。
「あ、ぅ……ク…リス……ッ……」
涙を滲ませながら、レオンはいつものようにシーツへ手を伸ばそうとして、寸前、ハッと我に返る。
……掴めない。ローションだらけの手でシーツを掴みたくない。
行き場の無いレオンの手を、クリスは目で笑った。手首を捕らえ、レオン自身の胸へ置いてやる。
一方、奥まで到達すると、腰を止めた。
「レオン、乾かないうちに弄ってみな……ほら、ちゃんと出来たら動いてやるから」
クリスが腰を横に揺らして促すと、レオンはギュッと目を閉じた。
それは狡い、狡猾すぎる。文句を云いたいが、きっと聞き入れてくれないだろう事を解っていた。
「……っ」
諦めて、震える濡れた指先で、己の乳首に触れる。無意識に、クリスを受け入れた場所の締め付けが強くなった。
親指と人差し指で摘んで擦ると、電気を流されたみたいな感覚がレオンの全身を伝う。
「……ん、んぅ」

「そう、……そのまま、な?」
クリスに云われて、レオンはこくこくと頷いた。目を閉じて、自分の乳首を苛めながら、嬌声に近い声でクリスを呼ぶ。
「く、クリス……」
「ん?どした?」
クリスはレオンの額に貼り付いた前髪を掻き上げてやり、いつもの調子で返事を返す。
ラジオに邪魔されながら小さく耳に届いた「動いてくれ」という願いに、ついニヤけにも似た笑顔が浮かぶ。
「勿論」
低く呟いて、額にキスを落とし開始の合図を送った。


タイミング良くハード・ロックな曲が始まり、クリスはそのサウンドに合わせて激しく腰を動かす。
「!あぁっ……」
深く穿つとレオンが高い声を上げた。きっとレオンにはもう、音楽なんて届いていないだろう。
ラジオの音量に負けないくらい、ベッドが軋んで悲鳴を上げた。
本当なら、レオンの声だけを聞きたいところだけど。突き上げながら、クリスは内心で本音を吐く。
はぁはぁと、荒くなる息に合わせて上下するレオンの胸が、ローションで濡れて光る。レオンの指先がその上で動いていた。
「……レオン……」
名を呼ぶと、薄目を開けてクリスを見上げる。レオンの左手を取って、レオン自身へ添えさせると、「いくぞ」と声をかけた。
「あ、っクリス、クリ…ス……」
狂ったように自分の名を呼ぶ声を愛おしく思いつつ、クリスはレオンの最奥を突いた。

明日の朝は、ラジオの音よりノイズがかって掠れた声に窘められるだろう、と予測しながら。













...end...


□□□□□□あとがきもどき。□□□□□□ ふたりはどんな音楽を聴くんだろうなぁ絶対好み合わないんだろうな〜!(*´∀`*)うふふ! ……と、ニマニマ妄想した結果です。 レオンとのジェネレーションギャップでガビーン!となる兄貴をガン見してみたいです。 アシュリーと兄貴だったらもう絶対に話が咬み合わないだろうなぁ〜。オッサンを自覚するクリスに萌えるレオンも良いと思います。 あ、レオンはギターよりウクレレの方が似合うと思います。 『Welcome〜』はS/i/m/p/l/e/P/l/a/nの曲です。大好きなので無理矢理入れてみました。ようこそ俺の人生へ! ひさびさにクリレオエロシーンをちゃんと書くぞーと気合いを入れた結果がこれだよ。エロ最中だろうとギャグ。とほほ。orz 相変わらずどっち着かずの視点描写でわかり辛くてすいません。(´;ω;`) 2009.01.18 ≪back