※※注意※※ ※※いつものクリレオベースとはザックリスッパリ思いっきり切り離した独立した話としてお読み頂けると幸いです。 ※※真面目そうに見せかけて残念な感じのイチャイチャ仕様漫才エージェント夫婦性格崩壊クラレオ話(救いようがない)です。 ※※途中までです。続きは今度(次で終わらす予定)。 以上、おけー!て方のみどうぞ〜↓ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 死を逃れる方法・1 他愛もない些細なミスや不注意が、大きな怪我……最悪は『死』に繋がる。それはもう云わずとも重々承知している。 あの日を境に、そういう世界に生きているのだから。 「レオン!!」 クラウザーが呼んだと同時に、チリっとした感触がレオンの左足に走った。 数拍置いて、パックリ開いた傷口が視界に入る。負傷した事実を頭ではすぐに理解したのに、全く痛みを感じ無かった。 白に近い黄色の、脂肪のようなねっとりとした液が、じわじわ滲み出る血に混ざって浮かぶのが見えて、 ……そこで初めてゾッとした。 スッパリと勢い良く切れた事が逆に幸いして、即応急処置を取って貰い……こうして今、安静にしている。 麻酔が効くのもそこそこに何針も縫われた脹ら脛に巻かれた包帯をレオンはじっと見た。 「仕事にすぐ戻る?無茶だね。最低でも2日は家で安静にして、なるべく動かさないように」 呆れ顔の医者にそう釘を刺された上、上層部からは2日どころか二週間もの休みを云い渡され、 仕方無く、自分のアパートに引き籠もって居た。 既に5日が経過し、順調に回復へと向かっている。……と、願う。 寝て起きて食事をし、病院で貰ってきた抗生物質と薬を飲んで、負傷した部分をビニールで覆って濡らさない様に気を配りシャワーを浴びる。 映りの悪い小さなテレビでつまらないニュースを見て、暫くぼんやり過ごし、そしてまた寝る。 愛用の銃の整備とナイフの手入れは休みの初日に済ませてしまったし、全くやることが無い。 最初の2日はまだ、疲れていた事もあって長時間だろうともぐっすり眠る事が出来た。 3日目からは流石に眠る時間も普段通り短くなり、只横になって大人しくしている事にもいい加減飽きて、 天井や壁を意味もなく睨み、唇から溜息ばかりが漏れる。 はぁ、と大袈裟な息を吐いて、レオンは枕に顔を埋めた。さらり、と延びた前髪が頬を擽る。 「そろそろ髪でも、切りにいくかな……」 前回床屋に行った日はいつだっただろう、とレオンは記憶を手繰る。 「2週間位前だったか……?じゃあ、明日行っておくか……」 近所位なら歩いてもいいだろ、枕に顔を埋めたままそうモゴモゴ独り言を吐く。余計虚しくなった。 そのまま目を閉じてどうにか眠ろうと努める。 何だかんだで眠気が増してきた頃、軽いノックが聞こえた。眠りに入ろうとしていた身体をゆっくり起こして、そっと玄関に向かう。 いつもなら何ともない、たかだか数十歩の距離。その短い距離さえ思うとおりに歩けない今の自分の身体が忌々しくて舌打ちする。 誰だ、と扉の向こうへ問う前に、聞き慣れた低い声がした。 「……レオン」 「クラウザーか」 なんだ、と息を吐いて、鍵を開けた。きぃい、ぎぃ、と錆びが擦れる不快な音を立ててドアが開く。 次いで現れた、散々見慣れている同僚の視線が、自分の目ではなく包帯の巻かれた足へ注がれる。 迎えに出た自分の格好が、Tシャツの下はパンツ一枚だったので、仰々しく包帯を覆った素足は嫌でも目につくのだとレオンは思った。 「どうだ?」 淡々とした表情のままでそう短く問うクラウザーに、レオンは右肩を壁に付け、片眉を上げる。左手で前髪を無造作に掻き上げた。 「ご覧の通りだ。……退屈で死にそうだな」 フン、と鼻を鳴らしてクラウザーは嗤う。仕事の後直接此処へ来たのか、黒のスーツ姿だ。 馬鹿にするように嗤いながらも、クラウザーは手に持っていた茶色い紙袋をレオンに差し出す。 中を開けずとも、美味そうな匂いがレオンの鼻を刺激した。 思ってもみなかった相棒からの差し入れに、いつも小馬鹿にするような邪険な笑みではなく、極めて純粋な笑みが浮かぶ。 「なんだ、珍しく気が利くじゃないか? ありがたいな。出歩くのが面倒でずっと携帯食で済ませてたんだ」 珍しく気が利くとはどういう事だ?とクラウザーが返そうかと思案する前に、 レオンはさっさと紙袋を受け取って、入れよ、とクラウザーを促した。 閉めようとするドアの隙間から冷たい風が入り込む。レオンは鍵をかけながら、 部屋に引き籠もっていて解らなかったけれど、今夜は結構冷えるんだな、と今更な事を知る。 テーブルの上は携帯食の空き箱が散乱していた。散らかした犯人は勿論レオン自身だ。 気にせずその隙間に紙袋を置いて、レオンは湯を沸かす用意を始める。 「そういえば、今、何時だ?」 ずっと家に閉じこもったままで、外の気温どころか、時間すら気に留めていなかった。 「もうすぐ0時だ」 クラウザーは左手首に付けた腕時計を見て答えると、上着を脱いで手近にあった椅子の背へ掛けた。 長居する気は無いという意志表示なのか、その椅子に腰掛ける事はせず、コンロ側に居るレオンとは反対の壁に背を預けて腕を組む。 「そうか」 ひたすら時間を潰す事ばかり考えて居たので、どれ程の時間が経過したかなんて気にしていなかったが、 ベッドでかなりの時間伏せていたのかもしれない。 恐らく、明日も早い時間から出なければならないのに様子を見に来てくれた相棒に、レオンはひっそりと、胸の内だけで感謝する。 そのまま二人とも会話を続けることもなく、そのうちに湯が沸いた。 美味いも不味いも無い、いつ煎れたって味が均一なインスタントコーヒーを注いで、レオンはカップを差し出した。 紙袋から僅かに漏れていたファーストフードの匂いを相殺するかの如く、 ……インスタントではあるものの、それなりに香ばしいコーヒーの香りが、狭い部屋を漂う。 「こんなのしか無くて悪いな。熱いぞ」 クラウザーは壁から背を離し、レオンに数歩近付くと右手を出しカップを受け取る。 そのクラウザーの、Yシャツの袖口から僅かに見えた白い包帯の存在に気付いて、レオンは目を丸くした。 「クラウザー、どうしたんだその包帯。お前も怪我してたのか?」 問い詰めるようにクラウザーに歩み寄るレオンの、怪我を負った左足が椅子にぶつかる。 「っ!……痛っ……」 ぶつけた痛みに顔を顰め、レオンは咄嗟に目の前にあったクラウザーの腕を掴んだ。 突然すぎたレオンの動作によって、受け取ったばかりのクラウザーのカップからコーヒーが波打って零れる。 その零れたコーヒーが見事にレオンの左足の太股へとかかった。 「!!あつっ……!!!」 「こっ…の馬鹿!」 レオンの悲痛な声とクラウザーの焦った声が重なり、直ぐにクラウザーはカップをテーブルへ置いた。 勢い良く置いたせいでテーブルにコーヒーが飛散したが、そんな事には構わず、レオンの腕を掴む。 レオンの地肌にかかった、熱湯で煎れたばかりのコーヒーは、包帯付近まで滴って茶色い染みを作っていた。 怪我を負った部分に直接かからなかった分まだマシだ。心の中で吐き捨てるように呟いて、クラウザーはレオンを抱きかかえる。 冷水で冷やさなければ、水膨れになるだろう。直接かかった部分が既に赤くなっていた。 手ならキッチンの水道で事足りるだろうが、場所が場所なだけにシャワーでないと冷やせそうにない。 「バスルームは」 短く急かすようにレオンに問う。 「っ……、そこ」 同じく短い返事とジェスチャーを受けて、クラウザーは痛がるレオンを強引に連れてバスルームに向かった。 「冷たい!!クラウザー、冷たいって!!」 冷水を太股から一気に当てられ、レオンは叫んだ。 空のバスタブの中に座るように降ろされ、怪我をした部分に水がかからないよう足首を縁へかけた状態で 下肢にシャワーで冷水を浴びせられ、逃げようにも逃げられない。下着は当然、それどころかTシャツも腰付近までぐっしょり濡れている。 当然の処置だろう事が理解出来るだけに逃げるつもりは無いけれど、つい文句が口から滑り出て決して広いとは云えない浴室の中に反響する。 「冷たい!なんでそんなに大雑把にかけるんだ!夏じゃ無いんだ、風邪引くだろ!!」 「安心しろ、バカは水を被ったくらいで風邪など引かん。我慢するんだな」 返す言葉が無くなり、うう、とレオンは唸った。水が冷たすぎて、身震いする。 レオンが住んでいるアパートの建物は古い部類だ。幾らかは錆びてるだろう水道管を伝って、 捻る度きゅうきゅう五月蝿い蛇口から出る水の温度は、夏は生温い、もしくは温めのお湯のよう。冬は真逆で氷のように冷たい。 今は真冬では無いけれども、秋の終わりはすぐそこだ。水は充分すぎる程に冷たい。 容赦なくザーザーとシャワーヘッドから出る水が、今すぐに枯れてしまえばいい。そんな子供みたいな事を願った。 5分、いや10分は経過しただろうか。歯の根が合わなくなってカチカチ音がし始めた。唇が震える。 水で冷やし続け(られ)た御陰で、赤くなっていた皮膚はそれ以上悪化していないようだった。しかし、患部以外のダメージがでかい。 縋るようにバスタブの縁を握る指先は血色が悪くなり真っ白だ。 「もう、……なぁ、……いいだろう……?」 寒気が続き、鳥肌は立ちっぱなしで、先程のようにギャーギャー文句を云う元気など出ない。 そんなレオンの様子を見て、クラウザーはようやく水を止めた。 必要だからした事で、決して虐待行為などでは無いのだが、すっかり大人しくなって震えるレオンの姿を見ていると まるで己が冷徹な悪者にでもなったような気がする。 「……タオルは何処だ?」 そっち、とレオンが白い指で指す。「勝手に漁るぞ」一応付け足して問うと、レオンは目を細めて無言で頷いた。 水の流れが止まると、濡れた衣服が肌にピッタリ貼り付き、まるで氷を押し付けられているように感じた。 クラウザーがタオルを取りに向かうと、レオンは我慢できずに濡れたシャツを脱ぎ捨てる。 縁に左足を掛けたままだったので、下着は脱ごうにも出来なかった。 「ほら」 戻ってきたクラウザーからバスタオルを片手で受け取って、レオンは胸元に抱きしめた。ようやくホッとする。 冷え切ったもう片方の手を伸ばして、クラウザーの腕を掴み「起こしてくれ」と頼む。クラウザーはレオンの仕草に怪訝な顔をした。 「……お前の、ものすごーーーーーく適切で丁寧な処置の御陰で、全身氷みたいだ。ロクに力が入らない」 まだ歯の根が合わないような口調だが、嫌味を精一杯込めてレオンが云うと、クラウザーは鼻で笑う。 両脇に腕を差し入れてバスタブの中に立たせると、レオンは片腕をクラウザーの肩に掛けたままで下着を脱いだ。 ようやく濡れた下着からも開放され、レオンの唇から、ふぅ、と息が漏れた。そのままの体勢でタオルで軽く身体を拭く。 肩に置かれたレオンの手が、Yシャツ越しでも冷たいと解る。クラウザーは黙ったまま、身体を拭くレオンを見据える。 文句ばかり云われようとも、こればかりは仕方ない。レオン自身が悪いとしか云いようがない。自業自得だ。 大体、目の前に、寒さで縮こまったイチモツが情けなくぶら下がっているという、自分の状況の方がよっぽど不憫に思える。 「レオン。お前、わざと濡れた手で俺に触っただろう」 「……なんだ、気付いたのか。鋭いじゃないか?ささやかなお礼だ」 顔色は悪いが、挑発的な目はそのままのレオンにクラウザーは失笑する。 いつも通りの憎たらしい、思わずブン殴ってやりたくなるような、糞生意気な口調が戻った事に何故か安堵を覚えた。 「今日の俺は気が利くからな。よければ今すぐ息の根を止めてやろうか」 「美女の前ならともかく、野郎の前で、しかも素っ裸で死ぬのはゴメンだ。 つまらなさすぎて地方新聞の片隅にすら取り上げられそうにない」 レオンは拭き終わったタオルをバスタブの中に放ると、クラウザーにそのままのし掛かるように腕に力を込めた。 「ほら、ベッドまで連れてってくれよ。今日のお前は気が利くんだろ?包帯替えてくれ」 小生意気に云うレオンに、クラウザーはほとほと呆れ、眉間に皺を寄せた。 「馬鹿か。いつまでも病人ぶるな」 「アホか。どう見ても怪我人だろ」 「…………」 「ほら、早く」 瞬時に返され二の句が告げられなくなるクラウザーに、レオンは急かすように声をかける。 「早くしてくれよ」 すっかり調子に乗って、こいつは一体何様のつもりなんだ?とクラウザーは思うが、仕方ないと諦めた。 諦めた証に、冷たい身体に手を回す。レオンはまだ血色の悪い唇を僅かに吊り上げて微笑を浮かべる。 「……退屈で死にそうだったんだ」 耳元に囁きかけるよう小さく届いた言葉に、クラウザーは息を吐く。 「心置きなく、死ね」 クラウザーが低い声で答えると、レオンは耐えきれず声を出して笑った。 「取り敢えず、もう冷たくなってるだろうけど、飯を食ってからな。お前の怪我の話もまだ聞いてないし」 クラウザーに手伝って貰い寝室に戻ると、レオンはエアコンのスイッチを入れる。 古いエアコンが唸ってブォンと埃臭い温風を吐き出すのを確認すると、裸のままベッドに腰かけた。 横を向いて足も全部ベッドの上に乗せると、コーヒーの染みた包帯を解き始める。 そうしながら、わざとクラウザーに聞こえるよう独り言を吐く。 「ああ、まだ手が悴むな。親切な誰かさんの御陰で」 「喧しい」 クラウザーはレオンの頭を殴ろうかと思ったが、なんとか堪えた。代わりに、厳つい手でレオンの髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜる。 「……っぶっ、やめろ馬鹿触るな。それよりそこにある箱取ってくれ、新しい包帯が入ってる。……そう、それ」 レオンに云われるまま、ベッド下付近にあった20センチ位のアルミケースを手に取り、中から包帯を出す。 「じゃあ、よろしく」 包帯を手にしたクラウザーにニヤリと笑って云うと、レオンは汚れた包帯をポイとゴミ箱へ放った。 「……あくまでも俺にさせる気か?」 「良いじゃないかその位」 乱された髪を手で撫で付けて、どこまでも涼しい返事のレオンに、呆れを込めた息を吐くと、クラウザーはベッドに腰を下ろした。 レオンの傷口を覆うガーゼを見る。包帯はコーヒーの被害に遭ったが、ガーゼ部分はどうやら難を逃れていた。 「抜糸はいつだ?」 「さぁ?医者次第だな。この通り大人しくしてるからもう数日ってとこじゃないのか」 どこが大人しいのだ、と文句が口から出そうだったが、そういえば今のところ五月蝿いのは口だけだったな、とクラウザーは思い直す。 これ以上五月蝿いのは御免だったので敢えて綺麗に巻いてやると、レオンは顔を綻ばせた。 「なんだ結構上手いじゃないか」 「そうだろう?」 褒め言葉に、すかさずクラウザーは悪人風の笑みを浮かべ、右手をレオンに差し出した。指でチョイチョイと、料金を促す合図を送る。 クラウザーの意図がそこで解り、レオンは綻ばせていた顔を一気に顰める。 「……金を取ろうっていうのか?」 「誰がタダでやってやると云った?」 フン、と鼻を鳴らして冷たく云い返してやると、レオンは顰めた顔を更に顰める。 「がめついな、クラウザー」 「どうとでも云え。貴様が休んでいる御陰で二人分働いているんだぞ、俺は」 レオンは数秒固まったままクラウザーを見据え、そして突然何かを思いついたように「わかった」と呟いた。 目の前に差し出されたままだったクラウザーの手に右手を乗せると、掴んで力一杯自分の方へ引き寄せる。 突然引っ張られたことで、レオンの足の上へ乗っかりそうになる上体をなんとか留めて、クラウザーは「馬鹿か!」と吐き捨てた。 怪我部分に倒れ込みそうになったではないか、と文句を続けて云う前に、レオンが「来いよ」と誘う。 「?……何だって??」 レオンの言葉に流石に耳を疑い、問い返す。しかし、クラウザーの手を握るレオンの指先もが誘うように甲を擽った。 「報酬。欲しいんだろ?」 挑発するように云うレオンに、クラウザーは無意識に唾を飲み込んだ。 ......続く
続き物はやめようと思ったけどどうしても長くなりそうだったのでここまでで取り敢えずアップ。orz 次で多分終わります。多分。 2008.11.07 ≪back